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桑原 康生

オオカミの森自然教室

オオカミと共に生活をしながら、生態系の研究を行っている桑原さん。オオカミが創りだす本来の自然のあり方を伝えるため、北海道で自然教室を開きながら、海外での野生生物研修も毎年行っています。その活動を行うようになったきっかけから、今後やっていきたい事をお聞きしてきました。

オオカミという頂点捕食者によって豊かな自然が育まれてきたんです。

桑原さんは小さいころからオオカミが好きだったんですか?

オオカミだけでなく、トラやライオンやゾウなど、動物全般が好きでした。キリンばかりずっと好きだった時期もあります。色々な動物に興味を持ちましたが、オオカミは特別で、常に好きな動物ランキングのトップ10にランクインしていました。 雪の中を走っている光景や、大きくて迫力のある身体といった、見た目の格好良さに惹かれていたんです。

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そのときからオオカミの研究をしようと思っていたんですか?

いえ、元々は獣医を目指していました。でも数学が苦手で、獣医の道を断念したんです。英語が好きだったこともあって、東京の大学の英文科に進学して、一度は就職して英語を教えていました。でも、やはり動物に関わる仕事をしたいと思って。オオカミを研究する道を目指し始めました。

色々な動物に興味がある中で、なぜオオカミだったんですか?

「生態系」の中で、動物を研究したいと思っていたからです。たしかに、動物に関わるといっても色々な仕事があると思います。ペットショップに務めるとか、動物園に務めるとか。でも、生態系のことを考えると、オオカミは絶対に目を背けられない対象になります。オオカミが生態系を作り出すのに重要な役割を持っているからです。私はその研究をするためにアメリカに行きました。

そうか、日本にはもうオオカミは居ないですもんね。

アメリカでは野生生物研究が盛んに行われていて、オオカミ以外にも色々な動物に出会う事ができました。ヘリコプターの中から、オオカミを麻酔銃で撃って調査するような活動を目指していた私が、日本でオオカミと暮らすようになったのは、今の奥さんと出会って一度日本に帰国したのがきっかけです。日本に居ながらにして、庭先でオオカミと体当たりで付き合うというのも面白いのではないかと考えるようになりました。実際にやってみると正面から向き合ったからこそ、見えてきたオオカミの活動も沢山あります。今はアラスカの研究者とはちょっと違うアプローチで、オオカミの研究を行なっています。

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オオカミは生態系の中でどんな役割をしているんですか?

オオカミは頂点捕食者です。オオカミが居たからこそ、シカの数が抑えられて豊かな森が育まれてきました。でも、今はオオカミが居なくなってしまった影響で、シカが爆発的に増えていて、農林業に多大な被害を与えています。30年前くらいまでは人間のハンターがシカを撃っていたので、まだシカの数を抑えられていたのですが、今では人間のハンターも高齢化して絶滅危惧種です。50代の私でさえ若手とされるので、ハンターの平均年齢は60代を超えるくらいだと思います。でも、だからといって、若いハンターを増やせば良いというわけでもありません。

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それはなぜですか?

簡単に言うと、人間が捕るシカとオオカミが捕るシカが違うからです。オオカミはリウマチなどにかかった、弱った個体を捕っていきます。そうやってシカの優良な遺伝子が残り、バランスが保たれてきました。でも、人間ハンターは、病気や怪我を見分ける能力は無いので、健康なシカを捕ってしまいがちです。本当の自然の環境は人間のハンターでは作り出せないと思っています。

オオカミが居たからこそ保たれる世界だったんですね。桑原さんもシカを撃ちに行くんですか?

はい。私もシカを撃ちます。シカを狙っていたらクマがこちらに向かってきた事もあります。茂みに隠れてシカを狙っていたので、クマは私に気付かずにやってきたんです。その時は本当に緊張しました。結局、クマが途中で私の匂いに気付いて逃げて行ったため、撃たずに済みましたが、ハンターは常に危険と隣合わせです。

自然の現状を知ってもらうことで
オオカミの必要性を少しでも感じてほしい。

オオカミの研究を続けていた桑原さんが、自然教室を開いたのはどうしてですか?

今の環境をきちんと正すためには、オオカミの再導入が必要だと考えているのですが、なかなか言葉だけ聞くと、あまり良いイメージを持ってもらえないことが多いんです。「オオカミは人間や家畜を襲うでしょう」と言われたりもします。それは先入観で、実際そのような事は稀なので、オオカミはどんな動物なのかを説明しながら、今の環境の話をすることで、少しでも自然環境に目を向けて頂きたいと思って自然教室を開いています。

海外研修も行っているんですね。

はい。毎年研修生を連れて、アメリカのイエローストーン国立公園へ野生動物研修に行ったりもしています。そこも日本と同じように人間がオオカミを滅ぼしてしまった経歴を持っているんです。でも、今から約20年前にカナダからオオカミを連れて来て再導入を行ったことで生態系のバランスを立て直す事に成功しました。その現実を実際に目の当たりにしてもらう事も重要だと思っています。

たしかに、実際に目の当たりにできるのは大きいですね。

自然教室の参加者の皆様には、オオカミをご見学頂き、オオカミの生態や自然生態系に関するレクチャーを行っています。また、馬に乗って森に入っていく体験もして頂いています。実際に森に入って行くと、目の前にあるのは不自然な自然環境なのが分かるんです。シカが苗木を食べた痕跡と、クマの足あとが稀にあるくらいで、オオカミの足あとなんてありません。私の自然教室では、馬の背中で揺られながら自然の現実を見て、森のことや生き物たちのことを時間をかけてじっくりお話しています。

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言葉で伝えるだけでなく、お客さんに体で体験してもらっているんですね。その活動がこの先どうなって行けばいいと考えていますか?

オオカミが森に戻れば良いと思っていますが、「私が死ぬまでに絶対に」とまでは思っていません。そもそも、私がこの活動をするのは、大自然を満喫したいからなんです。シカの数が適正数になっても、いちハンターとしてシカを捕りに行くと思います。それは、人が魚を釣るのや、山菜を取りにいくのと同じ感覚なんじゃないでしょうか。自分が馬に乗って森に入った時に、その森が健康であって欲しい。その欲求が元になっているので、オオカミを自然に戻すというのも結局自己満足なのです。でも、放っておけば森が壊れていくのは目に見えていて、今の日本に本当に必要なことでもあると確信しています。今後も、少しでも多くの人に、今の自然の生態系を伝える活動を続けていきたいと思っています。

桑原 康生

オオカミの森自然教室

茨城県出身。アラスカで野生生物管理学を学ぶ。 現在は、オオカミと共に暮らしながら生態系の研究を行い、 北海道で自然教室を開いている。

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