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伊藤 朋子

クレヨン工房Tuna-Kai

伊藤さんは、現在北海道虹別でクレヨン工房を営んでいますが、元々は農家で畑の仕事をしていた経歴の持ち主です。今回のインタビューではクレヨン作りを始めたきっかけから、クレヨンに対する想いや、今後の活動方針についてお伺いしてきました。

アレルギーで画材を触れない子供のために安心して使用できるクレヨンを

伊藤さんはいつ頃からクレヨン工房を始めたんですか?

本格的にクレヨン工房を始めたのは5年くらい前だったかな。それ以前は違うことをやっていました。学生時代に牛の勉強をしていたことをきっかけに、農家に嫁いだんですけど、子供を産んだ時に腰の骨を折ってしまって。畑の仕事が出来なくなっちゃったんです。当時まだ26歳だったし、毎日家にこもっているわけにはいかなかったので、自分で何か出来ることはないかって探していました。で、その時読んでいた本に「ハーブ染め」が載っていて。これだったら、自分の時間で無理なく出来るから良いんじゃないかと思って「草木染め」勉強を始めました。クレヨン作りはその後です。

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元々草木染めをやっていたんですね。どんな作品を作っていたんですか?

布を染めてハンカチとかを作っていました。でも、自分なりの表現がなかなか見つからなくて、凄く悩んでいたのを覚えています。やっぱり人の手に取ってもらうには他と違う何かが必要なんだけど、皆大抵同じような素材を使っているから、他の人と差別化が出来ませんでした。そうなると、アート寄りの染め表現をして作家として活動する道しか無くて。私は美大を出たわけでもないし、アート要素の強い染めの作品を見ても全く理解出来なかったので頭を抱えていました。一人では答えが出なかったので、染めを教わっていた先生に相談しに行ったところ、草木染めの知識を応用した、天然顔料と絵の具の作り方を教えてもらったんです。

なるほど。それからクレヨン作りを始めたんですね。

いえ、それが、それからすぐって訳でもありませんでした(笑)。私は染めの世界で個性的なことをしたいって思っていたので、クレヨン作りは何か違う気がして。草木染めの講師としてあちこちのイベントでワークショップをしていました。そこでアレルギーを持った男の子に出会ったのが、私がクレヨン作りを始めたきっかけです。

アレルギーですか?

はい。化学物質過敏症というんですけど、絵の具とかクレヨンとか、そういったものに入っている化学的に作られた物質に触ることが出来ないアレルギーです。その子は、「僕は絵を描いた事が無いんだ。」と言っていました。天然顔料から使ったクレヨンなら、この子にも持たせてあげることが出来る!そう思って、その子にクレヨンをあげるため、家に帰って早速クレヨン作りに取り掛かりました。

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その男の子にあげられたんですか?

いえ、結局あげられませんでした。そのイベントの期間は2週間だったので、間に合うと思っていたんですけど、いざ作り始めると思ったように出来なくて。ちゃんと描ける状態になるまで10年かかってしまいました。連絡先も聞けてなかったから、その子にはクレヨンを渡せなかったんだけど、他にもきっとアレルギーとかで困っている人は居るだろうし、そんな人の助けになればと思って5年前にクレヨン工房を開きました。

10年ですか…相当な研究をされたんですね。今は一つのクレヨンを作るのにどれくらい時間がかかるんですか?

いくつかまとめて作りますが、一回のクレヨン作りにおおよそ一ヶ月半かかります。材料を煮出す所から始まるんですけど、乾燥させる時間を長くとらなくてはいけなくて。顔料作りに2週間、クレヨン作りに一ヶ月。最後のクレヨンにラベルを巻く作業も、一つ一つ手作業で行っています。

できるだけ多くの人に知れ渡って
知らない場所で誰かのためになれば良いな

天然顔料とは、具体的にどんなものを使っているんですか?

普通のクレヨンには、大体科学的に調合された色が使われているんですけど、うちで作っているクレヨンは、花とか土といった自然の中に存在する色から作っています。時期によっては家の近くで摘めるものもあります。黒い色のクレヨンは、うちの煙突のススから作っていますよ(笑)

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えー!この煙突からですか!(笑)

はい(笑)。自然の色を使っているので、色の名前が「赤」とか「青」とかじゃなくて、元になった材料の名前が付いているのもうちの商品の特徴です。最近はクレヨンだけじゃなくて、クルミに入った絵の具とか、ヒグマの足あとの形をしたパレットを作って売るようにもなりました。パレットは近くに住んでて木工が出来る友達に作ってもらっています。

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どんな所でこの商品を使ってもらいたいですか?

以前、幼稚園の先生に絵の描き方を怒られてから、絵を描かなくなってしまった男の子のお母さんからお手紙を貰いました。その子は「色覚異常」っていう病気をもっていて、髪の毛を紫で塗ったりしていたんです。先生がそれを見て、「髪の毛は黒でしょ!」って無理やり黒のクレヨンを持たせて描かせていたから、絵を描く事自体が嫌いになってしまいました。それからずっと絵を描くことは無かったんですけど、うちのクレヨンは色の名前が植物の名前なので、「このクレヨンなら描ける!」って言って久しぶりに絵を描いてくれたみたいなんです。自分が想像もしていなかった所で誰かのためになっていて、このクレヨンの可能性はもっと色んな所にあるんじゃないかなって思いました。限定してどんな場面で使ってほしいとかは無いんだけど、できるだけ多くの人に知れ渡って、誰かのためになれば良いなって思います。

なるほど。伊藤さんのクレヨンならではの出来事ですね。では最後に、今後やっていきたい事とかチャレンジしたいことを教えてください。

北海道の自然環境がここ数年でどんどん変わってきているんです。鹿がとにかく増えて一年中居るから、ヒグマが冬眠しなくなって。たまたま、林業をやっていた人に出くわしたヒグマが人を襲ってしまったなんて話も聞きました。そうなると人間は熊を撃つしかなくて。また環境が変わってしまうんです。環境を変えてしまったのは人間に原因があるし、私は北海道で生きる人なので、私の出来る範囲で、クレヨン作りを通したヒグマの生存保護にも関わっていきたいと思っています。それとは別で、コラボ商品もどんどん増やして行きたいので、まだまだやりたいことが沢山あります!

保護活動ですか、素敵ですね。コラボ商品はどんなものを考えているんですか?

「五感を感じる商品」っていうのを考えていています。「味覚」「聴覚」「嗅覚」「視覚」「触覚」の5つの感覚を感じる事が出来るセット商品です。私はクレヨンや絵の具を作っているので「視覚」を担当します。多くの人が関わって一つの商品を作るのは初めての試みなので、仕上がりがとても楽しみです。

伊藤 朋子

クレヨン工房Tuna-Kai

静岡県出身。1994年独学で草木染めの勉強を始める。 染めの知識を応用して作った顔料から画材を制作し、 北海道虹別でクレヨン工房を営んでいる。

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